君に託す秘伝の書

 僕はすぐ人に本を貸す。もちろん、その人が読みたいと言った時に限るが、読みたい意志がある人が「何かオススメありますか?」と聞いてきたらフィッシュオンとばかりに貸す。同世代だと自分の趣味が固まっているので、あまり積極的に貸さないし借りない。僕が本を貸すのは、若い人に限る。

 僕は熱心な読書家ではないので、断続的に読んではいるけれど偏りはある。何でも読むタイプではなく、好きな作家から派生するファミリー・ツリーを辿るような読み方だ。たまに自分の型を壊すために、あえて読んだことのない作家の本を買ってみたりする。そうやって、時々脳を拡張してみる。

 本を読むことは、僕にとってはかなりシンドい行為だ。どんな本でも面白くなるのは、ページをめくって数十ページ読み進めた辺りからなので、そこまでは苦行だ。だから、エッセイや短編集の方が気軽に読める。でも、そういう本は印象に残らない。やっぱり長編をガッツリ読んだ方が楽しめる。

 そんなカスカスの読書遍歴の中で、若いうちに読んでおいた方が良いと思う名著がいくつかある。そのひとつが沢木耕太郎の「深夜特急」だ。大学時代に友人に薦められて読んで以来、何度か読んだ。何度も、ではない。僕は一度読んだ本を二度読むことがほぼないので、それでもレアなのである。

 簡単に説明するとバックパッカーバイブル的な旅行記なのだが、バイブルというよりは私小説だ。内省的だし、ちょっと暗い。著者が若い頃の実体験を元にした作品だが、リアルタイムのレポートではないので実用的ではない。もっと雰囲気を味わうような作品だし、旅の匂いを嗅ぐような文章だ。

 すぐには自由な旅行ができなそうな状況ではないが、まだバックパッカー的なセルフ冒険を未経験の学生には予備知識としてこの本を授けたい。青春の暗さを旅の空の下で味わって欲しい。そんな若者が「オススメありますか?」と聞いてきたので、この本を紹介した。あまり伝わる気はしないが。

夏でも僕のおすすめはチキンマカロニグラタン。いつでも汗だく口腔内火傷。