酒場はいつでも愛おしい

 なんとなく誰かに自分の内心を吐露したような気がするのだけれど、その相手が誰なのかが思いだせない。もしかしたら夢の中のことかもしれないが、それにしては具体的なシチュエーションを覚えている。酒場のカウンターで、ちょっとだけ口調も荒かった気がする。できれば夢であってほしい。

 昨夜の酒場での行動パターンを考えると、とても荒くれるような場面は思い当たらない。お互いの家族の話をしていて、ある点において黙っていられなくなったようだ。そんな流れが酒場にいる間にあったかな、思い出せないな。とは言え、その店の従業員の目を気にしたような感覚は残っている。

 その目を気配として察しながらも、内心「オレってこういうとこあんだよな」との諦観に似た気持ちになったことも覚えている。やっぱり現実に酒場で起こったことのようだ。部分的にスポッと抜けている。その時間帯だけ瞬間的にパッと頭が沸騰したような感覚だ。そのあと二軒ハシゴしている。

 不機嫌になるような話をしたわけではないのだが、家族に関するセンシティブな内容の事柄だったと思う。その時に自分に変なスイッチが入った感覚があったので、意識的にそのあとで思考を切り替えたのだろう。切り替えが効き過ぎて、本当にそんなことがあったのかも不明瞭にさせてしまった。

 いつもなら酒場で粗相した翌日は、事後処理のように再訪するところだ。でも、今日はやめておこう。なんとなく昨日と同じ結界が張られたままのような気がする。こういう日に飲んでもロクなことはない。僕はスピリチュアルな人間ではないが、酒場に関するイヤな予感はかなりの的中率を誇る。

 暑い日中を家の中で最も暑い部屋で過ごすという無駄な我慢大会を続けている。だから、夕方になるとビールのことしか考えていない。どこで飲むか、何を飲むか、そんなことしか頭に浮かばない。そんな大好きな酒場に懸念を持ち込むのは野暮だ。今日はおとなしく、家で野球観戦とビールだな。

フルーティなビールという甘い誘惑に負けて、何杯も飲んでは泥酔する日々。