その空白は埋められない

 なにか大きな悩みを抱えていそうな人がいても、当人が具体的に悩みを打ち明けてくれない限り、周りは動けない。当たりをつけて誘導尋問してみても、流されてしまったりする。流すということは、具体的な悩みの本体がまだ生々しい状態ってことだろう。つまり、他人に触れられたくないのだ。

 他人に触れられたくない悩みがあることが外側に漏れているということは、それだけ大きな悩みなのだ。周りは少ないヒントから類推して想像するのだが、本当の答えは教えてもらえない。むしろ、その本質を避けている様子が見られるので、どんどん聞けない状況になる。カミングアウト待ちだ。

 とは言えコチラも、それを待っているわけでない。言いたければ言えば良いし、言いたくなければ黙っていてもらって構わない。それが気になってしまうのは、当人の態度に平時と違う兆候が出まくっているからだ。こんなに普通じゃないのに黙っているのは、同じ酒場の住人として看過できない。

 それでもやはり黙っている。酒場の常連同士というのは、一期一会のものだ。そこから一歩先の付き合いに深まることもあるが、すべての人とそんな風に付き合っていたら忙しくて仕方ない。その場所をキーにして、そこでのみ繰り広げられるひと夜の宴で構わないのだ。その宴がザワついている。

 個人的な悩みを見せないように振る舞うというノイズが、四方八方に不協和音を飛び散らせてしまった。別に大きなトラブルがあったわけではないのだが、例えるなら新しく入ったバンドメンバーが自己主張しまくったような夜だった。そのことで気まずい思いをしているだろうことは想像できる。

 僕はその件に関して実害があるような深い関係性の人間ではないのだが、たまたま席次の都合で巻き添えのようなカタチになった。僕は部外者ヅラしてゴキゲンに振舞っていたのだが、内心穏やかじゃない人がイライラを募らせないように中間管理職のように飲んでいたので、ちょっとだけ疲れた。

どこにも旅行に行かないGW、毎日飲んでいるので酒場での珍事件は起こる。