僕の好きな寮生活の話

 大学生の頃、ラグビー部員の大半は私設の寮に入っていた。都内在住の学生と、入学後に入部した者以外は、まだ高校を卒業する前から入寮していた。僕は教習所に通っていたので、泣く泣く退所して寮に入った。結局その4年後に改めて合宿で免許を取ることになる。そんな寮生活のスタートだ。

 朝練があるので、寮の朝はとても早い。朝食と晩飯が付くのだが、特別な理由がない限りは絶対に食事は食べなければいけない。ラグビー選手にとって食事も大事なトレーニングの一環ではあるのだが、僕はもともと大食漢なので食事の時間は楽しみでしかなかった。寮の食事も結構美味しかった。

 他の同級生は味がどうだとか、ご飯の硬さがあーだとか好き勝手言っていたが、僕は卵焼きが甘いこと以外は何も文句はなかった。ただ、最初の1年は食事の当番が回ってくるので、食事の準備を手伝ったり、食器洗いをしなければいけない。そこで僕は、その後の人生に繋がる大きな学びを得る。

 先輩のひとりに、体は細いのに食事は大量に食べる人がいた。体型的には僕に似ているのだが、その人の食べ方が汚かったのだ。必ずご飯をお代わりし、最後は納豆を白米とゴチャ混ぜにしてかきこむ。子供の頃は僕もそうやって食べていた。でも、ああして食べて汚れた茶碗を洗うのは僕なのだ。

 それから僕は、納豆を茶碗に触れずに食べる努力をするようになった。この食べ方は今でも続いている。この件だけでなく、集団での生活には気づきが多い。それはチームスポーツをする上での連帯感を育む意味でも大事だが、何よりも生きる上でのバイタリティになる。サバイバルの知恵である。

 この寮からは訳あって1年で出てしまった。だから、上級生になってからの寮生活の楽しさを知らない。いや、学生寮に入り直したから、その時は3年生だったので上級生ではあった。でも半年しかいなかったし、同部屋の後輩に気を使うだけで最初に入った寮のような親密さは感じられなかった。

ラグビー部寮の近くにあった世田谷線の駅舎は古い趣きのある良い駅だった。