宴会部長は背中で語る

 大学のラグビー部に入った時、僕は孤立しないために「笑われる役」を買って出ていた。まあ、正確に言えば僕の根っこにある調子ノリが、最初に宴会芸でウケちゃえばラクだと思っての自発的な行動だ。どうせ新入生は、上級生から「何かやれ」と無茶振りされる。それを逆手に取ってやるのだ。

 ひとつ上の先輩で、宴会芸に長けた人がいて、その人が最初は見本として一発芸をかます。それを見て先輩たちは「やっぱ達者だよな」と褒め称えつつ、徐々にハードルを上げて最終的にちょっとスベって終わる。その手順を見ていて、ここは「勢いイッパツだな」と気持ちを切り替えたのだった。

 宴会芸なんて誰がやってもスベるものだ。誰も面白い素人を見たくて芸をさせているわけじゃない。スベって照れる様を見て笑いたいのだ。長いこと素人の一発芸を見ていて、面白かった人など誰もいない。ただ、気に入った後輩のやる勢いのある芸は笑ってしまう。つまり、それは愛情の問題だ。

 その仕組みをなんとなく肌で感じていた僕は、この宴会芸で誰かしら先輩からある程度の覚えめでたくなれれば良いと思っていた。その大学のラグビー部には、僕の高校からの先輩も同級生もいない孤軍奮闘の世界だ。他の連中は比較的繋がりがあったりするので、孤立しないように多少足掻いた。

 合宿の打ち上げや飲み会など、事あるごとに「何かやれ」と言われるようになった。それで、毎回軽くスベる。それでもやり続ける。もちろん全ての先輩が笑っているわけじゃない。中には「こいつ本当につまんねーよな」と目を見て言ってくる先輩もいた。その時は「スンマセン」とやり過ごす。

 そんなことを言われて平気なわけはないのだが、僕は自分の役割が分かっていたので不思議と心は折れなかった。ツマラナイも繰り返せば笑いになる。スベり待ちの状態だ。そんな風に逆に盛り上がるような素材をいつも探していた。中庭で練習するチアリーダーをマネた時は過去最高にスベった。