その奥へ、さらに深く

 ものの理解というものは、表面だけを見ていても分からない。その中に入って、深く潜り込んでやっとヒントが見つかる程度だ。体育会の学生だった僕で言えば、ずっと続けていた競技の真骨頂というものは見えずじまいだったような気がする。だから、今でもやり残した感覚が消えずにいるのだ。

 無趣味な僕は、突き詰めて考えたことがない。学生の頃の部活にしても、ただコーチの言うことに従って練習していただけだ。ただ、単調な練習の中で感じるものがあって、それを機にブレイクスルーする瞬間は何度かあったと思う。無心でやっていると、小さな「その先」が見えたりするものだ。

 どうしても学生時代の部活でやり尽くした感があるのだが、その後の人生の方が長くなっている。そろそろ部活の呪縛から解かれて、突き詰めるべき課題を見つけるべきだと思う。久しぶりにそんなことを考えたのは、昨日、出先で会ったビール醸造家の会話が熱かったからだ。その熱が感染した。

 僕が酒場に通うようになったのは、もともと飲むのが好きだったからだが、ある夏のビールが異常に美味かった実体験による。その頃は倉庫でバイトをしていたのだが、コンテナからの荷降ろし業務が連日続いていた。酷暑の作業は過酷なのだが、バイト仲間らとワイワイ楽しみながらやっていた。

 そんな夏のある日、職場のリーダー格の人間に誘われて、みんなで焼肉の食べ放題に行った。そこで大ジョッキのビールを飲んだら、過去イチで美味かった。その店は絶対にビールの味に定評がある店ではないが、カラカラの体に染み入るビールは極上の美味だった。そして僕はビール派になった。

 焼肉とビール。これさえあれば生きていけると思っていた。20代の僕を奮い立たせていたのはコレだけだ。次第に焼肉愛が薄まってきても、ビールへの愛は変わらない。そして、次第に銘柄にこだわるようになっていった。そんなある日、酒場で海外のビールに出会い深い沼底を覗くことになる。