天使におくる言葉たち

 読書好きな女子に貸していた本が、昨日、まとめて返ってきた。紙袋の中には、本とともに「ありがとうございました」とひと言添えたメモと、彼女のお気に入りのお菓子が入っていた。気がきく子だ。僕は、こういう気の利かせ方ができなくて、いつも善意の受け手としてヘラヘラするばかりだ。

 数日前にも、酒場の常連さんの差し入れで岩ガキをご馳走になった。人からの貰い物が過去イチで美味いというのは自分の食歴の底が知れるというものだが、そのことを恥ずかしいとは思わない。ただ、何かしら恩返しをしたいなとは思う。食の恩は食で返したいが、岩ガキは超えられそうにない。

 昨日も酒場に行くと、その店の前オーナーが来ていて、最初のビールをご馳走になってしまった。僕は、オゴられる時にザコ感が出るタイプだ。ペコペコして情けない感じになってしまう。それだとオゴる方の見え方も悪くなるので、なるべく気持ちよくオゴられるように大きな声で感謝を伝える。

 酒場でのマナーというか、常連の心得として長居した時は店の人に振る舞うというのがスマートだ。僕が酒場で長居をすると、気の利かない唐変木になる。記憶も曖昧な中で、この木偶の坊が彼らに「一杯どうかね」などと振る舞っているとは思えない。でも、シラフに近い状態だと照れてしまう。

 最初に話を戻そう。返された本の返礼品に関して、僕としては恐縮してしまう部分がある。それは、本を人に貸す行為は自己満足だからだ。貸した本が相手に刺されば僕も嬉しい。刺さらないならば、どのジャンルが刺さるのかを探る楽しさもある。作家の文章を介して伝えるラブレターみたいだ。

 ちなみに、昨日の気がきく女子は人妻だ。だから、これは擬似不倫に近い。でも、できれば現在は未婚で、僕と好いたらしい関係にある女性と本の貸し借りをできる関係が理想だ。そんな相手と擬似じゃない恋愛関係に発展したいものだ。その予行演習として人妻の個人図書館に成り下がっている。

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行きつけの酒場が大好きなギネスを再開したので、酒場タイムが長くなる。