ボトムからアッパーカット

 仕事先にあまりスーツの人がいないので、たまにそういう会社員然とした肩書きがちゃんとある人に会うと聞きたいことが多くなる。フリーの僕との関係性はイーブンなのだが、実際に社会的立場のようなものを鑑みると、決して対等とは言いにくい。でも、ギリギリ卑しくならないように頑張る。

 普段は話さないような社会情勢のさわりのような、当たり障りのない話から入ってゆく。そんな話でも、僕の中の燃える闘魂が「許せない現状」を見つけて熱くなってしまう。まあ、そのスーツの人に熱くなる理由もないので、心の中で密かに発火するだけだが、話に温度を感じる程度には伝わる。

 会社員だった頃のことを考えると、僕は年上のちゃんとした人とは話が通じるのだ。僕の周りにはあまりいなかったのだが、ちゃんとした会社に勤める人とは滞りなく話せる。自分の勤め先には変わり者しかいないので、会話が絶望的に楽しくない。観察するのは楽しいが、当事者になると地獄だ。

 なぜ変わり者ばかりの会社なのかと言えば、それだけ怪しい会社だったわけだ。ロクなヤツが来ないのだ。もちろん、僕もその中の一員なので、そのブーメランを避ける気はない。それでも、そこから上に上がれると思って入ったのだ。結論から言うと、その会社を辞めて以降も延々と地獄巡りだ。

 どうせ地獄ならずっと会社に居続けて地獄の日々での発見を楽しめば良かった。そんな思いも多少あるが、それは永遠に叶わない。僕が最後に勤めて辞めた会社は、もうない。そんな終わりの始まりの気配を感じて、その頃その会社にいた数人が揃って辞めたのだ。変わり者を乗せた船は沈没する。

 あれから10年以上経ったと思うと、そら恐ろしいものを感じる。なし崩し的にフリーランスなどと言っているが、いまだに何者にもなっていないような現状だ。なんとか日々の飲み代だけは稼げているが、老後なんて言葉が出てくると白目を剥いて気絶してしまいそうだ。現実なんて見るもんか!

仕事への意識が低いので、バキバキのビルに入った有名企業への憧れは皆無だ。