HBRKになるまで飲む

 どうしても酒を飲み始めると長くなってしまう。ひとりなら早めに切り上げるのだが、その場に人がいると、どんどん楽しくなる。人を肴にして飲んでいるとも言える。そこに話し相手がいなくても、そこにいる人を見ていれば酒が進む。そして最終バスを逃し、フラッフラな足取りで歩いて帰る。

 あまり躊躇なくタクシーを利用するタイプなのだが、最近は歩いて帰ることが多い。ちなみに酒場地帯からタクシーで帰ると、ちょうど千円くらいの距離だ。もちろん深夜料金だ。正直に言えば千円になった時点で降りているだけなので、そこからちょっとだけ歩く。千円ちょうどにしたいからだ。

 歩いて帰る利点として、酔い覚ましの散歩の歩調に合わせて聴く音楽が気持ち良いということがある。シャッフル再生にして、その時の気分に合った曲が来るまでスキップしまくる。そうすると、夜の町歩きにピッタリの曲が見つかる。それさえ聴いていればゴキゲンなので、歩くのも苦じゃない。

 ただ、真夏のガン冷やし冷房タクシーの誘惑には勝てないかもしれない。あと、深夜のタクシー運転手がよく聴いている「ラジオ深夜便」が小さな音量で漏れてくるのも好きだ。トーク内容は聞き取れないのだが、アレを聞くと夜遊びの後ろめたさから解放される気がする。一瞬だけ酔いも覚める。

 歩いて帰ってもラジオは聴けるが、果たしてあのタクシーの気分が得られるのかは試したことがないので分からない。でも、できれば試したくない。あの気分はタクシーとの相乗効果で得られる特別なものだと思いたい。いろんな思いが浮かんでくるのだ。そんなセンチメンタルを残しておきたい。

 昨夜も、やっと通常の営業時間に戻った酒場が閉店の片付けをする頃まで飲んでいた。真夜中にしか会えない飲み仲間がいたので、話し込んでしまった。自分から帰ると言えない僕は、店長が会計を持ってくるまで居続けてしまう。だから帰り道では真っ直ぐ歩けないほど酔った。無事で良かった。

この川沿いの道を歩いて酒場に向かう。行きはこんな夕日の出ている時間だ。