ミカエルとルシファー
正義漢を試されるような選択の場面で、天使と悪魔が両側から囁くような心理描写がマンガの定番的な表現としてある。そんな場面には滅多に遭遇しないが、先日街を歩いていたら、前の方で若者2人組がタバコをポイ捨てして立ち去った。一瞬「行ったろうかな」と思ったが、結局はスルーした。
なぜ行かなかったのか明白な理由がある。それは、その若者が僕と交番の間にいたからだ。僕が注意をしてケンカになると、目の前の交番から出てきた警官は僕を注意するだろう。そんな想像が一瞬で浮かんでしまったので、不条理な目に遭いたくないので無視した。あと物理的な距離も遠かった。
もうひとつ理由を挙げるなら、僕ひとりなら声をかけてタバコの吸い殻を処理させるだけで止めようとする。そこで悪態をつかれたとしても、諦めて「仕方ないか」と結局スルーする。でも、僕は待ち合わせをしていて、その相手が若者の近くにいたのだ。彼は正義漢なので絶対に許さないだろう。
実際に彼が若者を注意して大暴れしたところを見たことがあるので、10年以上経ったとしても本質は変わってないと思われる。だから、囁く天使を説得してスルーした。僕が本当に天使なら、その捨てられたタバコの吸い殻を然るべき場所に移動させるだろう。しかし、僕は天使なんかじゃない。
僕が喫煙者だった頃は、駅のホームでタバコが吸えた。さすがにホームの柱のすべてに缶の灰皿が備え付けられていた時代ではないが、ホームの突端に喫煙エリアが設けられていた。そして、毎朝の通勤時にそこで一服したものだった。その吸い殻入れはいつも煙っていた。火を消してないからだ。
その頃の僕は、缶コーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。コーヒーが好きで飲んでいたわけではなく、セットになっていたのだ。だから、煙でくすぶった吸い殻入れに飲み残しコーヒーをかけて消化しようと試みることが多かった。当然ながら、そんな微量の水分では消えない。そんな思い出。