あなたのお名前なんてーの?

 昨日、酒場のカウンターで飲んでいたら、その店でバイトをしていた男の子が隣にきた。古い知り合いなのだが、久しぶりの再会で名前が出てこない。確か下の名前で呼んでいたのに、何故か苗字の方だけが思い出せた。でも、普段呼ばない苗字で声をかけるのは気が進まない。ここは誤魔化そう。

 仲の良い友達などには、あえて素気ない感じで苗字で呼ぶことで生まれる変な間を楽しむことができる。ある種の言葉遊びであり、信頼関係の確認作業でもある。これを微妙な関係の人間にやると、本当にイヤな間ができて気まずくなるのだ。そこを見誤らないのは、運動部での経験によるだろう。

 部活内では、基本的にはみんな仲間だ。その前提はあるが、大勢の部員がいれば全員と仲良しということはあり得ない。僕がそう望んだとしても、相手がそう思わないこともある。なるべく広く付き合おうと思うと、大事な仲間からの信頼を失うこともある。そういうバランスは大嫌いだが、ある。

 あと、部活には縦軸の関係性もある。先輩後輩の上下関係だ。僕は先輩には弱く、後輩には甘いタイプだった。その関係性の中でもバランスの読み合いはあり、特に先輩に関しては程よく甘えるというプレイが重要になる。ただの使いっパシリはツラいので、先輩には適度に甘えなければいけない。

 ここがもっもと体育会能力を試されるのだが、ヤンキー系の人間はここを容易くクリアする。会話の端々に地元の勢力を匂わせれば、ひとりの先輩なんて軽く落とせる。別にそんな勢力の後ろ盾なんてなくても、匂わせるだけで面倒臭い。ただ、その先輩が地元で伝説のヤンキーの場合は無意味だ。

 冒頭の話に戻そう。名前を忘れてしまった人間が隣に座って、会話しつつ飲むことになってしまった。歳下とはいえ、今さら名前を聞くような遠い関係ではない。それに、脳の活性化のためにも思い出したいところだ。そう思って会話の中にヒントを探ったが、結局思い出せず、さっき思い出した。

このラーメンをどの店で撮ったのか思い出せなかったが、さっき思い出した。