飛べない鳥のブルース

 小学生の頃、学校の校門近くには物売りがゲリラ出店していた。学校が許可を出すわけがないので、間違いなく無断出店だろう。取り締まる法律がなかったのか、僕の町に警察署がなかったのか、その両方なのかは分からない。ちなみに僕の町には小さな交番がひとつあるだけだった。物騒な町だ。

 僕の記憶で、もっとも多く出店していたのは文房具系の物売りだ。細かいアイテムがいくつかあったが、印象に残っているのは巨大な消しゴムだ。電話帳サイズと言っても現代では伝わらないと思うけれど、少年誌サイズと言えば良いのか。その圧倒的な大きさに心打たれ、親にねだって断られた。

 いま考えれば本当に買わなくて良かったと思う。あの大きさだから、買っていたら今でも家に残っているだろう。恥ずかしさと処分方法が分からないのとで、捨てるのにも困る。そして何より、その巨大消しゴムを目にするたびに恥ずかしさのアンコールが繰り返される。トラウマのオブジェ化だ。

 そんなゲリラ出店者が、年に何度か現れては子供の心にさざなみを立たせた。そこで僕が買ったことがある唯一のものは、生き物だった。当時はカラーひよこと言って、ひよこをカラフルに塗装してペットとして売る商売があったのだ。僕が買ったのは、カラーリングしていないソリッド型だった。

 正確には母親が「かわいそう」とか言って買ったんだと思う。たぶん一羽だけ余っていたのを格安で売っていたのだ。そのあとで、つがいじゃないと「かわいそうだから」と、ペットショップでもう一羽買ったのだ。そのひよこはニワトリになり、何度も子供を作って、結局家では飼えなくなった。

 両親は秋田県の出身で、家はコメ農家だったらしい。子供の頃の父親は、飼っているニワトリの担当だったそうだ。飼育担当ではなく下処理の担当だ。ニワトリは食べるために飼われており、秋田では鍋物に必ず鶏肉を使う。わが家で飼ったニワトリは、そんな父親の職場で飼われることになった。

滅多に作らないが、母親の唐揚げは美味い。鶏肉はスーパーで買ったものだ。