歯を削って髪を切る

 フリーランスという不安定な立場の僅かばかりの利点として、平日の昼間から普通に髪を切りに行ける。なるべく午前中から動くように、歯医者と髪切りの予約は午前中に入れる。特に歯医者は開店直後に行くことにしている。そうすると、朝イチならではのトラブルに見舞われることが多々ある。

 おそらく引き継ぎの連携ミスか何かだと思うのだが、現場を仕切っている女性がカリカリしている。スタッフの張り詰めた空気がガラス越しに伝わって来るのだ。診察室の雰囲気は最悪だが、待合室では朝の気楽なワイドショーが流れている。そして、スタッフの緊張を冷めた心でスルーしている。

 その歯科クリニックは、ある日曜日に歯の痛みに耐えられずに検索して見つけた。歩いても行けるような近所なので、通うのにも便利だと思って決めた。通い始めてほどなく、その女性リーダーの恐怖政治に気が付いた。普段は受付にいるのだが、診察室が回らなくなると中の仕事もこなす鉄人だ。

 口も手も出るタイプというか、デキる人に特有の容赦のなさが滲み出ている。もっとお手柔らかに頼むよ、と他人事ながら思ってしまう。でも内政干渉する気はないので、口には出さない。本当にそのアティチュードが受け入れられなくなったら歯医者を変えれば良いだけのことだ。ちと不便だが。

 昨日は朝イチで、長期間治療している2本のうちの1本の型取りをした。次に行く時には、その歯の治療は終わる。でも、もう1本の方がクセモノで、何度か「もしかしたら抜かなきゃいけないかも」と医師から言われているが、なんとしても抜かずに治してほしいと思いを込めて睨み返してきた。

 そんな憂鬱な歯の治療を終えて、友達の美容院に髪を切りに行った。僕の髪なんて街の格安カットで十分なのだが、古いよしみで刈ってもらっている。結婚しているので、髪を切るくらいしか会う口実もない。もう何年も髪を委ねてきたので、僕の床屋歴では最長の担当者になってしまったようだ。

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10年前はフラッと海沿いに出て、港湾の雰囲気を満喫しに行ったものだった。