サタデーナイトの奇跡

 自分の住む町にライブができるバーがあるなんて想像もしていなかった。だから、そこで仲間が初めての弾き語りライブをやると言われた時も、軽く考えていた。バーのスペースに無理して設けた舞台らしき場所で、ちんまりと演奏する姿を想像していた。でも、果たしてそれはステージであった。

 ローカルな弾き語りイベントなので、客数もまばらだ。でも、だからこそ感染対策に気を病む必要がない。初めからディスタンスは確保されているし、来店した人間の素性も簡単に追跡可能だからだ。リラックスしたムードで、小さなライブハウスくらいの環境で演奏を見られるのはワクワクする。

 このリラックスムードの中で、出演予定の僕らの仲間だけは緊張した面持ちだった。こういう場で気弱な中年が急変し、大音声でシャウトする軌跡が見たくて、僕も彼に期待を込めているうちに緊張してきた。いや、緊張というよりは、この段階でハードルを上げ過ぎるのは良くないと思い直した。

 その店は、僕の家から自転車なら5分前後で着くくらいの距離だろうか。なんとなく信用できない町なので、市内にある店のことも期待しないクセが付いている。でも、しっかりした作りの店と、雰囲気などを見るうちに、呑み込まれてしまったらしい。初ライブの中年が起こす奇跡を信じていた。

 果たして奇跡は起こらなかった。なんとか30分のステージをやり切ったが、まともに歌えたのは最後の曲くらいだった。シンプルにギターと歌が合ってない。弾きながら歌うことが難しいことは知っているが、それをモノにできていないようだ。もっと修行して出直して来い、といったところだ。

 そのあとに2組出てきて、古めの曲を演奏するギターデュオと、自作曲を内省的かつエキセントリックに歌う若手の自作自演歌手を見ることができた。そちらの方は特に破綻のない演奏で、シンプルに音楽を浴びることができた。有名無名問わず、ライブは良いものだ。気持ち良い夜をありがとう。

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今年は行われるという近所の桜まつり。屋台が出ないというので少し寂しい。