初期衝動もほどほどに

 むかしから好きなアーティストの多くが、初期衝動に突き動かされて音楽をやっている的なことを語っていた。いろんな人間が何度も同じようなことを言っていたので、それは僕の中でもある種の正解になっている。彼らの多くは初期衝動を持続させるために、頻繁にメンバーチェンジを繰り返す。

 僕が初期衝動を映像として想起するのは、映画の「ドアーズ」だ。ジム・モリソン役の人が反対側へ突き抜けろと歌っているシーンが思い出される。それは、どちらかと言うとカウンターカルチャー的な、逆張りの発想の歌詞なのかもしれない。でも、どうしようもなく初期衝動こじらせを感じる。

 初期衝動を突き詰めると、何事も最初の感動を超えることはないということだと思う。古い知り合いで、どんなバンドでもファーストアルバムがイチバン好きと言っていたヤツがいた。それは初期衝動に殉じているのだろう。僕はファーストアルバムがあまり好きではない。それは荒削りだからだ。

 つまり長く続けていくと洗練されるのだ。その洗練された音の最終形態が、アーティストのキャリアハイになるのだと思う。それは売上げもあるし、評論家筋から名盤と呼ばれる作品として残ったりもする。そういう他人の評価に流されるのはロック度が低いので、できれば隠れた名盤を掘りたい。

 結局、僕は初期衝動に駆られる焦燥感に憧れは持ちつつも、それはそれとして、ちゃんとした名盤は熟成の後にあると思っている。勢いイッパツのロックンロールみたいな音楽も楽しいが、何度でも聴ける深みのあるアルバムの方が価値あるように感じる。それは僕がケチなアルバム世代だからだ。

 ただ、パンクバンドのアルバムはファーストに限るのだ。パンクは初期衝動だけの音楽なので、ファーストで完結している場合が多い。それ以降は勢いが衰えるか、小手先のテクが身について面白くなくなることが多い。下手なことが正義な数少ないジャンルなので、上達しないことが求められる。

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クリーム系パスタの美味さを知ったのが遅かったので、初期衝動は継続中だ。