瞬間移動を我が手に

 超能力ブームというのがあった。言葉だけだとあたかも超能力が実在するかのようなブームだが、実際はスプーン曲げとその検証程度の小論争だった。ESPカードなんていうのもあったな。透視能力のある子がカードに書かれているマークを当てるというヤツだ。専用のカードというのが怪しい。

 そういう各種能力の中でも、特に無理筋なチカラに瞬間移動・テレポーテーションがある。ありえない能力だが、急いでいる時や緊急事態に思い浮かぶのはこのチカラなのだ。朝起きてギリギリまで寝ていたい時に、瞬間移動で訪問先に行ければラクだ。そんなことを考えているから余計に遅くなる。

 電車に乗り遅れそうな時にも同じようなことを考えるのだが、その電車に間に合うように飛んだとしても、突然車内に現れた僕は極めて不審だ。そんな時はひっそりと飛べるように念じるのだが、念じたところで飛ばないし、そもそもその能力があるなら目的地近くの目立たない場所に飛ぶべきだ。

 とにかく瞬間移動したくなる瞬間は、僕のようにギリギリの時間を攻める(シンプルに言えば怠惰)者には日常的にある。その中でも極めつけなのはトイレに行きたい時だ。安らかなる我が家のトイレにいつでも飛べれば、僕の大人の余裕はかなりランクアップするだろう。ダンディになれそうだ。

 先日も最寄り駅から帰る際に、バスに乗り込んだ瞬間に尿意が兆して、道中ずっと我慢していたが、そのバスがルート違いで遠いバス停で降りることになった。内股で家路を急いだのだが、家に着いてトイレに入った瞬間に油断してチョイ漏れしてしまった。久しぶりの大失策に数日間落ち込んだ。

 あの夜は瞬間移動のことを考える余裕すらなかったな。それを考えたところで飛べるわけではないし、むしろ油断して野外漏れする可能性の方が高い。ちゃんと危機管理の意識が働いているのだ。瞬間移動のことを考えられるのは切羽詰まった事情がない時だ。僕の場合、尿意は遅刻に勝るようだ。

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瞬間移動先は人目につかない所が良いが、そこは悪意の人間が潜んでいそう。