無謀と慎重の闘い

 小学生の頃の移動手段は自転車だ。移動範囲は市内の限られたエリアだったけれど、数人で自転車移動する時は、毎回レースになる。自転車の性能は大差ないが、どれだけ無謀に走れるかでスピードが変わってくる。交差点にノンブレーキで飛び込む暴走自転車の列に、車内から怒声が響いていた。

 僕は交差点では停まっていた。だから圧倒的に遅い。でも行く先はわかっているので慌てなくても追いつける。先頭を行くヤツは、いつも僕の幼馴染でヤンチャ坊主の子だった。無謀なのは幼稚園の頃から変わっていない。大怪我をするような危険な遊びばかりをするクライシスジャンキーなのだ。

 そいつがある時期、取り憑かれたように繰り返していた危険な遊びに「中川クライマー」というものがある。名付けたのは、その遊びをやってる界隈の悪ガキだろう。市の東を流れる中川という川に、新しい橋を作っていた時期のことだ。まだ完成する前の橋の下を渡る根性試しのようなゲームだ。

 上手く説明できないのは、僕がそのゲームをやったことがないからだ。暴走自転車のヤンチャ者に「連れてけ」とせがんだのだが、断られた。ヤツは僕が交差点で停まるタイプだということをよく知っている。そんなヤツにできるゲームじゃないということだ。アイツなりの優しさでもあるのだが。

 僕とそいつは正反対の性格と言えるだろう。スリルを求めて生きているアイツのことを真には理解できない気がしていた。それでも幼馴染の腐れ縁というか、付かず離れずの関係性で小学生時代を過ごした。卒業する直前に家の事情で引っ越してからは、成人式で偶然会ったきり顔を見てはいない。

 ある時、たまたま先頭を走っている時に無謀運転で交差点に突っ込んだことがある。そのまま快調にスピードを上げて、風を切る感覚に昂りを覚えてしまった。危険と隣り合わせのスリルの先に、この爽快感があったのだ。アイツが無謀な行動で追い求めていたのは、この感覚だったように思える。

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どこまでも真っ直ぐな道を走って行きたい願望はある。走れる自信はない。