そこだけに生える毛

 僕の指には毛が生えている。手指に毛が生えるのは珍しいことではないと思うが、全体の毛量から考えると不自然なくらい、そこだけが濃い。この指の部分だけを見たら、そりゃ胸毛も生えているだろうと思われるかもしれない。でも体毛は濃くない。ただ、何故かむかしから指毛だけが濃いのだ。

 かつて聞いた論によると、体毛は外部の刺激からの保護や体温調整のために生えているものだと記憶している。そして、昨今の追加情報によると、その保護の目的はすでに失われているとも聞く。将来的に、と言っても来世紀以降の話だろうけれど、人間の体毛はさらに薄くなっていくのだろうか。

 毛に関しては、今年に入ってから気になる部位がふたつある。頭髪の毛量が想定外のスピードで薄くなっていることと、耳毛だ。薄毛に関しては将来的には諦めようと思うのだが、現在は過渡期で「何かしら対策したら延命できるのか?」と自問を繰り返して、答えを見出せずにいる。医者行くか?

 後者の耳毛問題は、今年に限らず中年域に入ってからずっと懸念している。自分で見えないので指で確認するのだが、触感的にはかなりの剛毛が生えてそうな手触りがあるのだ。たまに引っ張って抜いてみると、鼻毛の半分くらいのがキャッチできる。これが耳に密生していたら聞こえないだろう。

 指毛も耳毛も、どちらもかなり親しい人間しか目視しない部位だろう。赤の他人に見られても恥ずかしくない。見られたくない人間だけが見るというジレンマ。相手に気を使わせたくないので、なるべくその辺の話は気さくに話しておくようにしている。それ以前に、そこまで親しい人間がいるか?

 こういう細かいことが気になる時は、大体ヒマなのだ。忙しいと気にしていられない。それも困る。身だしなみが疎かになると、ただでさえ存在が軽い僕の品位はゼロからマイナスへと落ち込む。モテたいとかの次元ではなく、愉快な人間たちの輪から外れそうだ。いつでも頭の片隅には毛がいる。

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道路に面した窓を掃除しないで放置していると、廃墟と間違われてしまう。