自分だけの言葉を探して

 決まり文句や常套句、ありきたりな表現のことを「クリシェ」と呼ぶ。自分で本を読んでいて、表現的に凡庸すぎると思う言葉があると冷める。その本に好意的な場合は、頭の中で自分なりに最適な表現で上書きすることもある。素人が勝手なことをするなと思われそうだが、その本は僕の私物だ。

 僕が大好きな漫画『迷走王ボーダー』の中に、「ブルジョワジーの傲慢が気にくわなかった」というセリフがある。そのセリフが出てくる場面が好きで、何度も読み返した。人を見下すような目線にさらされることはないが、そのような気配を感じたりすると真っ先に思い浮かぶ大切な言葉である。

 このようにハードボイルド的な表現は常套句たり得ない。日常にハードボイルドなシーンがないから、それ用のクリシェが確立していないとも言えるだろう。逆に言えば、ハードボイルドを読んでクリシェに出会ってしまったら、それ以上読み進めることは難しい。最も表現にシビアなジャンルだ。

 また、似たような言葉をチョイスミスするのも冷めるポイントだ。小説などは校正がきちんとしていると思って信用して読んでいるのだが、新刊だと誤字をそのまんま載せている場合がある。それは作家への不信感にも繋がるし、読んでいるときのグルーヴを著しく低下させるので注意して欲しい。

 予測変換で勝手に出てきて間違えやすいのが「以外」と「意外」だ。これは世に出回っているエスエヌエスのコメントにも無数に見られる。先日読んだ本の中にも「これは『意外』だろ」と思わせる箇所があった。どうやら「以外」の方が予測変換の序列が上のようで、自分も以前はよく間違えた。

 誤字を減らすのは優しさの問題であり、それを気にさせないようにするという配慮が書き手には必須だと思う。本当は「なくす」と記したかったが、ここでも誤字は頻繁にあるので「減らす」という表現で自分に忖度した。自分で面白いと思った話を勢いで記したときほど誤字が増える傾向にある。

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道路にペイントされた「止まれ」などの文字。いつかこの誤字に出会いたい。