六本木はオレを知らない
大学生の頃、僕は部活しかしていなかった。他のことはオマケであり、ラグビー部で燃え尽きるつもりで過ごしていた。だから、日常は雑だ。別に荒れていたわけではないが、キャンパスライフを楽しもうとする気がなかった。学科の同級生と仲良く遊ぶこともないし、特に声も掛けられなかった。
だからと言って孤独だったわけではない。授業に出れば知った顔はいるし、テストの前に出まわる過去問のおすそ分けをもらうことはできた。つまり、単位を取るための最低限の付き合いだった。相手からもそれはバレていた。最初の頃は代返を頼んでいたのだが、ある日を境に断られてしまった。
代返を断られると、朝練と昼練と放課後の練習があるので忙しくなる。どうしても体がキツイ時は、授業をサボって空き教室で寝ていたいのだ。他の連中は学科にラグビー部の仲間がいるので、そういうのは持ち回りでできる。でも、僕の学科には部活の仲間もいない。仕方ないので授業を受ける。
授業には出ていたから単位は普通に取れた。成績は「可」ばかりだから優秀というわけではない。でも、僕はギリギリでも卒業さえできれば良いと考えていた。授業に割く時間は最低限で良い。何よりも部活優先でいたいのだ。何か強い意志があったわけではない。ただ、徹した方が楽だったのだ。
そんな日々だが、もちろん部活以外の時間も長い。練習が終われば、仲間の部屋に集まってダラダラと過ごしたりする。そんな時に誰かが「ディスコに行ってみよう」と言い出した。全員がジャージのような姿だったので一瞬迷ったが、当時できたての有名ディスコを「観に行こうぜ」というのだ。
せっかく都内に暮らしているのに、そんな有名なディスコを「観たこともない」というのはダサいような気もする。でも、観るだけの方が逆にダサいとも思う。同じダサいのなら観に行ってやろうじゃないか。そんな気分でついて行ったのだが、外観からはド派手なパチンコ屋にしか見えなかった。