オレの歯はラムネさ

 歯医者に通い始めると長くなる。先月から通っているのだが、今朝また新たに治療箇所を増やしてしまった。現在治療中の歯を処置した後で、いま気になっている別の歯のことを指摘したら、そのまま処置に入ってくれた。歯医者ではあまり2箇所同時攻めはしないものだが、早く済むなら助かる。

 でも、たぶん早くは済まない。歯茎の腫れを指摘したら、その根の部分を治療するというのだ。現在治療中の歯とまったく同じ症状であり、治療の方法も同じだ。歯の神経が通っていた部分に細い針状の器具を差し込んで、ゴリゴリやるのだ。子供の頃から何度も味わってきたが、一向に慣れない。

 そんな感じで朝から2箇所も歯が削られている。どちらも左側なので、食事の際は右側でしか食べられない。こういう偏りから、治療中に別の虫歯が誘発されることはあるだろう。食べる時に変な気がかりがあるというだけで、かなり気が滅入る。こんな世界で楽しいことなんて食事しかないのに。

 治療中の歯には仮の詰め物を施されるが、この仮の石膏みたいなヤツが不安定で気持ちが悪い。舌触りとしてはラムネに近いのだが、そんな風に舌で確認しているとグラグラ動き出す。詰め物が自発的に動いているわけではなく、舌の圧に負けて詰め物の接着能力の限界を超えてしまったのである。

 そうやって口の中にボロッと、まるで土壁が崩れるかのように破片が舌の上に落ちてくる。その感覚はまるで我が歯を失ったかのような喪失感なのだ。あまり味わいたくない感覚なので歯医者に「詰め物が外れちゃったんだけど」と電話しても、電話の向こうは「そのままでも平気ですよ」と返す。

 いま通っている歯医者の仮の詰め物は、通いはじめの頃はポロポロ取れたものだ。あの擬似・永久歯の喪失感を味わわせることで、歯を大事にする心を育てているのか。でも、僕も慣れてきたので、いまではその緩い詰め物を崩すことなく次回の治療まで保たせている。無駄な能力を培ったものだ。

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僕の出没エリアでランチの聖地と言えば浅草橋。歯の治療が終わったら行く。