富士山麓からクレイジーレター

 僕が運転免許を取得したのは大学卒業間近だ。いや、厳密に言えば卒業した翌週のことだったと思う。卒業式に間に合うように合宿免許を申し込んでいたのだが、途中の実技試験を2回ほど落第して2週間くらい伸びてしまったのだ。その影響で入社式にも遅れた。ダメな社会人のスタートだった。

 合宿では知らない数人と同じ部屋で過ごすのだが、目的が同じなのですぐに打ち解ける。入所のタイミングが違うので、僕だけ後から入って、先にいた連中は卒業していった。その後はひとり部屋になってしまった。寂しくはないが、大勢いた時は夜に飲んだりカラオケに行ったりして楽しかった。

 消えかけた思い出をかき集めると、その頃の僕には付き合っていた彼女がいた。合宿の部屋で過ごすのがあまりにもヒマなので、その子に手紙を書いて送った。あまり書くことがないので、感傷的な文章の余白に窓から見える富士急ハイランドを書いて添えた。思い返すだけでも鳥肌が立ってくる。

 なんで手紙なんて書いたのだろう。あの部屋に悪霊が棲んでいて、勝手に僕の手を動かしたと思いたい。でも、若い頃の僕にはそういうクセがあったのだ。ときどき無性に文学ぶるのだ。肥大した思考を開陳しないと気が済まない瞬間がある。そういう意味では、このブログも似たようなものだが。

 合宿から帰ってきても、あの手紙のことは聞かなかったし、先方も話してこなかった。それがキッカケでもないのだろうけれど、その年の暮れには疎遠になっていた。でも、別れる前にあの恥ずかしい手紙だけは回収しておきたかったな。捨ててくれてたら良いのだけれど、それは確認できないし。

 いま思えば、あの恥ずかしい手紙が僕の唯一のラブレターなのだ。あの手の手紙を中学生とかで書いていたら、もっと恥ずかしいものに仕上げていた自信がある。だから、あの程度で済んで良かったのかもしれない。まあ、何を書いたのかなんて覚えていないのだけれど、とにかく絵が気持ち悪い。

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以前は年に1回は海に行き、無駄に感傷に耽溺していた。おセンチおじさん。