ハンドメイドで安全地帯

 ラグビー部の寮で生活していた頃、同室の同級生と険悪になりかけたことがある。もともと短気な男だったのだが、たまに軽く怒らせながらも総じて仲良くやってきたと思う。僕は適当な性格なので、比較的キッチリしている同居人に叱られることが多かったと思う。そんなある日の出来事である。

 その日の同居人は機嫌が悪かったのだが、そんなことは知らずに寮の当番で食事の支度と後片付けに入っていた。同居人も同じ当番だったのだが、僕の所作に最初は注意をしていたが、そのうち何も話さなくなった。ヘソを曲げてしまったらしい。こういう局面には慣れていないので面倒に感じた。

 でも、こういう些細なことで同級生と険悪になると、卒業するまでずっと話さないなんて悲しい思い出になってしまうことがある。中学・高校と過ごしてきて、何人かと無意味な不機嫌で疎遠になったまま話さずに卒業してしまっている。その頃よりは成長したと思うのでシッカリ話し合ってみた。

 たぶん一時的な不機嫌なので、次の日になれば元に戻っている可能性もあった。でも、過去の疎遠になった連中の顔が浮かんできたので、部屋に戻ると同居人に対して「何か言いたいことがあるよな」と詰め寄ってみたのだ。多少は怒られても良いと思って話したが、そんな感じにはならなかった。

 ただ「トロいねん」と京都弁で言われたくらいだ。結局はいつもの調子だ。本当にちょっと機嫌が悪くて当たっただけのようだ。それ以降はそういうこともなくなった。でも、今思い返してみても自分の行動とは思えない律儀さがあるのだ。あの頃が僕の生涯で最も純粋で正義だったかもしれない。

 僕としては、ラグビー部の練習がこの世で何よりもハードで厳しい世界だった。そのツラさを癒してくれるのが、寮での日常だ。本当にヘトヘトで遊ぶのも惜しいくらい寝て起きての繰り返しだったが、その部屋では完全に気を抜きたかった。だから、同居人と険悪になっている場合ではないのだ。