やむにやまれぬアドベンチャー

 危険だと分かっていても、危ない場所に惹かれてしまうものである。例えば高いところに行くと、怖いのに下を見ずにはいられないというのもその症状だろう。行き過ぎた人は〈クライシスジャンキー〉などと揶揄される。危険中毒者なのだ。背中にナイフの切っ先を感じて生きたい人間のことだ。

 もちろん、僕はノークライシスライフ推進派である。危険な目になんて遭いたくないし、危険な場所を好き好んで見てみたいとも思わない。ただ、危なそうだなという気配を発する場所を嗅ぎ分けるために、そういう場所を知っておく必要は感じている。そういう危機回避の予習として興味はある。

 フィジカルな危険に関しては、誰でも見ればわかるという場所が多い。ビルの屋上や崖、海岸の岩場や川の急流など、命の危険がひと目でわかる場所に予習は要らない。その予習が命取りになるからだ。そんな場所の近くで遊ぶ時(釣りなど)は、なるべく安全側を選ぶようにしたいと思っている。

 子供は判断力がないので、危険な場所で遊んでいても意識できない時がある。僕の仲間にはクライシス気質の人間が多かったのか、誰もが危険な場所に我から飛び込んで行く。街中を自転車移動する際も、ノーブレーキで見通しの悪い交差点から飛び出して行く。自殺志願者の如く生き急いでいる。

 そんな連中と川沿いでカニを取って遊んでいると、僕の足元が知らないうちにヒザ下まで砂に埋まっていた。脱出しようともがいたら、そのままズブズブと腰まで浸かってしまった。ソレをみていた仲間のひとりが「底なし沼だ」と言い放ち、絶対に助からないよと言って僕を絶望の淵に押しやる。

 そのとき僕が思ったのは「2度とこんなヤツらと遊ばない」ということだった。自分の危険は顧みないくせに、他人を危険に巻き込んだら知らんぷりを決め込む。結局、その砂地からは自力で脱出できたのだが、絶対に助からないと言って見捨てた人間のことは忘れない。と思っていたが、忘れた。

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クルマの通りすがりに危なそうな地域を横目で見て震えるくらいで良い。