分かりにくさがセキュリティ

 僕の勝手な思い込みだが、外国の飲食店は赤い。特にアジアは赤い。食材が赤い場合もあるが、壁や店内の装飾が赤いように思われる。看板にも赤が用いられることが多い気がする。それは人目をひく効果を狙っているのだから、僕のようにTVの画面越しに観て惹かれている時点で有効と言える。

 アジアの赤い飲食店のイメージは、激辛料理ともシンクロする。暑くなってくると辛い料理を食べたくなる。寒い時も食べたくなる。とにかく、年がら年中理由をつけて辛いものを欲している。でも、多汗な僕に外食での激辛はツラい。汗で店舗を水没させてしまうだろう。だから滅多に食べない。

 社会人になってから、多国籍な街で暗躍する清濁合わせ飲んだキャラクターが主人公の小説が好きだ。それは善悪に関する僕なりの価値観と、登場人物のそれとが近いからかもしれないと思っていた。でも、そういう価値観はその手の小説に感化された後付けで、単に多国籍な世界観が好きなのだ。

 街の裏通りに、地元の人間しか知らない隠れた中華の名店があったとする。小説の主人公は当たり前のようにその店に入り、いかにも素人じゃなさそうな強面が奥で食べているのには気づかないように店主の老婆を呼びつける。老婆は嫌な顔をするが、注文を聞くと、厨房に向かって広東語を叫ぶ。

 こんなシーンを読んでいると、奥にいるという強面のプロよりも、その店で提供されるという絶品中華の方が気になってしまう。ここで店主の言語を広東語に設定したのは「広東人は飛ぶものは飛行機以外、四つ足は机と椅子以外」なんでも食べると言う挿話を最近読んで興味を持ったからである。

 地元の繁華街を歩いていても危なそうな路地裏はないし、仮にあったとしたら、それは他人の家の私道だ。そんな場所に「隠れた名店」はない。だから、数カ月前に隠れたキムチ屋を教えられた時は興奮した。でも店舗じゃないのが残念。自分をハードボイルドと錯覚させるような店を探している。

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横浜某所。悪くない店構えの中華屋だが、広い通り沿いなのが惜しい。