それぞれのイーブン

 かなり前の話だが、知り合いのクルマのカーステに僕のCDを入れっぱなしにして、返してもらおうと思ったら、真夏の車内に置き忘れて剥き身のCDがメロメロに反り返っていたことがあった。その時に、その知り合いは悪びれる様子もなく「あ、夏だからね」的なことを言って済まそうとした。

 もちろん、それは弁償することありきでの返事だったと思うが、本人が言外に匂わす「弁償するから良いじゃん」という開き直りがハナについたのを覚えている。そういう人間とは自然に疎遠になるものだが、そのころは交友範囲が狭かったので長い付き合いになってしまった。腐れ縁地獄である。

 その腐れ縁地獄からは脱却済みなのだが、思い出すと不快なことは多々ある。それを思い出そうとするのは自傷行為に近いので、根が能天気な僕は滅多に思い出さない。ただ、僕の脳内倫理委員会が不快の原因を見つけて対策法を練りたいと考える時があるらしく、たまに検証してはイラッとする。

 近くにいると腹立つ人間というのは、離れてみると話題として使えることが多い。その本人は面白くないし、それに巻き込まれる自分も不愉快極まりないのだが、その顛末を語ることで生まれる笑いがあるので、少しだけ救われる。できれば、その相手には話題にしていることを悟られたくないが。

 先のCDの案件も、そいつは買って弁償するのではなく、同じCDをレンタルしたものをコピーして返してきた。ケースは無事だったので、そのケースにコピーCDを入れて「無駄にならなくて良かったね」的なことを言ったような気がする。こういうセコさに、こちらの戦闘意欲が削がれるのだ。

 そのすぐあと、そいつのクルマに置いていったCDがまた紛失したのだが、その時はさらに開き直っていて「このクルマにCDを置き忘れる方が悪い」というようなことを言われた。これを意訳すると「バカなんだから許せよ」ということだ。その後、そう思って数年付き合ったが、許せなかった。

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腹立つことを思い出したら腹が減ってしまった。昼飯はチャーハンがいいな。