障害物を難なく越える男

 中学生の頃、陸上部だった僕はハードルの選手にさせられた。競技の中から専門を選ばされるのだが、誰も110mハードルを選ばなかったので、いちばん背の高い僕が半ば強制的に割り振られた。出る種目が多ければ、団体得点でも高得点を狙えるということだろう。後になって思ったことだが。

 陸上競技は個人種目だが、市内大会では各中学校ごとの総得点も出していたみたいだ。全然興味がなかったので、大会が終わった後で発表していたのも聞いていなかった。その市内でハードルを専門にしている選手自体が多くて3人くらいしかいなかったので、僕は自動的に上位に入るのであった。

 県大会には出られるのだが、何せ頭数合わせでやらされているだけなので、予選落ちのザコだ。自分としても、一向に早くも上手くもならないので、やり甲斐は持てなかった。その割には高校1年生までやることになった。高校になるとハードルの高さが一般と同じなので、さらに難易度が上がる。

 それでも、予選でビリになるほど極端に遅いわけでもない。ハードルはインターバルを3歩で走れれば、それなりにカッコがつくし、後半はスピードも多少は上がってくる。3台目くらいまで走れば乗ってくるので、あとは走り抜けるだけだ。ハッキリ言ってフォームもクソもない、ただの必死だ。

 周りのヤツらがスイスイとハードルを超えて行くので、それに遅いとはいえ食らいついている僕も似たようなフォームなんだろうと思っていた。でも、ある試合で他の高校に行った友達が僕の走っている姿をビデオに録画したものを見せてもらった。その姿がビックリするほどダサくて哀れだった。

 ハードルを越える時はまたぐ感覚で、ぴょんと飛び越えるとタイムロスになるから、頭の上下動を抑えて下半身だけで超えていかなければいけない。でも、僕だけは完全にジャンプしているのだ。思えば3年もやっていたのに、その姿には成長というものを一切感じさせない。そりゃ、辞めますよ。