スマートに泥を食う

 僕がラグビーをしていた頃のポジションは、背が高い人間がやらされるロックと呼ばれるフォワードのスクラム第二列だ。真面目にロックというポジションに徹すると、ラインアウト以外ではほとんどボールに触る機会がない。あらゆる接点に最初に働きかけ、次の接点へと先を急ぐポジションだ。

 縁の下の力持ちという言葉があるが、ラグビーのロックにこそ相応しい言葉だと思う。スクラムという点にだけ絞ると、第一列のプロップが直接相手と力比べをしているので、そこを見て「縁の下の力持ち」と使いたくなる気持ちも分かる。でも、スクラムは縁の下でも何でもないラグビーの華だ。

 僕は高校からラグビーをはじめたけれど、途中入部だったので実質は1年半くらいしかラグビーをやれなかった。だから、高校卒業時点でのラグビー経験は高2以下だ。そして細かいルールを覚えることもなく、ラグビーの知識レベルも低い。そんな状態で、無謀にも大学の体育会系に挑んだのだ。

 だから、ラグビーのプレーに関しては自分の意思がない。ドラマ「スクール☆ウォーズ」の影響を受けてラグビーをはじめたは良いが、試合での自分の振る舞いが分かっていない。そんな状態で、まさに徒手空拳で大学ラグビーに臨んだ。有名校ではなかったが、それでも周りはみんな上手いのだ。

 気後しつつ、練習試合を重ねるうちに身についてくる。先輩からも助言をもらえる。そんな中で特に印象的だったのは、1年次に4年生から言われた「お前、全ポイントに入らないと蹴っ飛ばすぞ」という言葉だ。一瞬「試合中に味方を蹴るなよ」と思ったが、その言葉はロックの役割そのものだ。

 その先輩はスクラムハーフだったので、ポイントからボールを早く出す専門職だ。そのプレーをスムーズにするのは、ロックの速い集散にかかっている。すべては繋がっているのだ。後ろが綺麗なラグビーをするために、僕は泥臭いプレーに身を捧げてきた。だから、いまだに泥臭い人間が好きだ。

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最下層からこの世のてっぺんを見上げる者の視線を持ち続けていたい。