プラスチックの丸い板

 最近は音楽をダウンロードして聴くのが主流だと思う。物量を増やさずにデータだけを拡張させていくのは手軽で合理的だ。そこに異論を挟む余地はない。ただ、音楽を聴く楽しみにはCDを買いに行くこと、店で探しながら目移りすること、視聴で初見のアーティストに感動することも含まれる。

 外出すること自体が「良くないこと」とされそうな現状だが、それは置いても、もはや音楽データを店頭で買うという意識が希薄になって来ているような気がする。そんな中、AC/DCのニューアルバムが全米1位を記録したという。想像だが、このバンドのファンは店頭で買いそうな気がする。

 配信による楽曲のリリースがメインなので、逆にCDで発売することを「フィジカルリリース」と呼ぶようだ。カタチのあるもの、ということだろうか。最近の僕はアルバム単位で曲を聴かないので、サブスクでイイトコどりした方が得だとは思っている。それでも、店頭で選ぶのをやめられない。

 ある種の成功体験ではないが、その方法でしか感動を手に入れられないと思い込んでしまっているのだろう。レコ屋に複数ある視聴機から、自分が好きそうなものに自然に引かれる感じとかは、確かに「出会い」のように感じる。でも、まあアレはポップを見て事前にアタマで理解しているのだが。

 音楽の流れる空間で、僕の記憶で一番新しい印象的な情景は、昨年のライブでの一場面だ。開演前の客入れBGMがゆったり流れ、まだ緊張感が高まっていない状態の場内。そこで流れた曲に僕は反応した。柴田聡子というアーティストの曲だった。その曲の入ったCDを買ったばかりだったのだ。

 すると、少し前の女性客がスマホを中空にかざしているのが見えた。音を聴かせて誰の曲かを検索するアプリのようだ。しばらくして、僕の知っているアルバムジャケットが画面に現れた。それは、とても幸せな瞬間だと思った。彼女がグッドミュージックと出会った瞬間をピーピングできたのだ。

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店のBGMが気になる時はあるが、食べている最中は聴いてない。