仕事が楽しいなんて言うなよ

 僕は働くのが好きな方で、忙しいと愚痴は多くなるけれど内心では楽しくなっている。頭を使うような素案を出すのも好きだし、単純作業をひたすら無心でやるのも没頭してしまう。とにかく早く終わらせるのが好きなので、そのレスポンスの速さで発注元を驚かしてやりたいと思ってしまうのだ。

 本当はある程度時間をかけて、仕上げた案だとか製品を置いて冷静に見直すということも必要だと思う。でも、見直すことはあまりない。だから、後で間違えが見つかって真夜中に修正依頼の電話が鳴ることもある。携帯電話はずっとバイブだからベルは鳴らないが、ほとんどの電話はクレームだ。

 別にいま僕が楽しいことを仕事に選んだというわけじゃなくて、昔から働くのは好きだし向上心もある。向き不向きという言葉があるが、僕は向いてない仕事でも上手くやりたいと思うのだ。ただ、僕は「努力しないと成果は得られない」という原則に縛られている。だから、即戦力にはならない。

 ちゃんとした修行期間が欲しいのだ。最初の城の近くでレベル上げをしてから旅に出たいのだ。いや、コレはあくまで仕事における例え話なので、実際のロールプレイングゲームではレベルを無視してストーリーの先を急いでしまうタイプだ。もともとセッカチではある。そこが相反するところだ。

 ちゃんと経験を積みたいのだが、その経験の積み上げは「最短」に済ませたいのだ。ショートカットはしないが、必要分をさらったらすぐに実戦投入したくなる。その実戦でも、ひと通りの失敗をしたくなる。何も間違えない人間なんていないと思うので、あえて間違いやすいことに挑みたくなる。

 先月あたりから仕事が増えはじめた。それまでが泣くほどヒマだったので、最初はペースが掴めずイラついたりしていた。でも、やはり忙しい方が落ち着く。没頭し過ぎて頭が痛くなったりする。つい呼吸を止めてしまうのだ。誰からも急かされていないのに、スピード狂の僕は今日も最速に挑む。