なにも飲まなくて、酒

 酒場の店長に仕事を頼まれたので、営業時間にその店を訪ねた。現地で作業するので、ノートパソコンを持って行った。別の仕事も並行してやりながら、頼まれた仕事を同時進行で進めていた。その間、いつもの常連が飲みに来ては帰って行く。それを横目にパソコンにかぶりついて作業していた。

 前々日に痛風の発作と思わしき症状に襲われていたので、そのトリガーとなるお酒は避けている(ダジャレではない)。酒場で断酒の試みは非常に落ち込む。周りの楽しそうな気配が僕の闇の部分を刺激する。その上、僕だけ酒場に仕事を持ち込んでいる。とてもイヤな存在になってしまっている。

 それでも仕事に取り掛かったら終わらせたいと思うものだ。終われるように作業に没頭していたら、アッという間に閉店の時間になっていた。まあ、まだ現状では時短営業なので、9時には店は閉まってしまう。周りはひとときの癒しタイムを満喫した満足顔で、僕は仕事を終えたお疲れ顔である。

 普段なら仕事中でも平気で飲める。家で作業中なら飲まないが、酒場に仕事を持ち込んだ時は飲む。飲みながらやった方が進むという判断のもとに、酒場で仕事しているのだ。僕としては理想的な業務スタイルなのだが、仕事を終えてひと息入れにくるお客さんの気持ちを考えると反省してしまう。

 僕が酒場を仕事場にしたいと思うようになったのは、大沢在昌の「ザ・ジョーカー」という小説を読んでからだ。ジョーカーは、トランプゲームの切り札的な意味で、どんなトラブルも解決する存在である。普段は六本木の酒場で飲んでいて、依頼者が来たら仕事に取り掛かるというストーリーだ。

 僕は酒場に依頼されて、酒場の雑用仕事をしたに過ぎない。雑用の切り札ではあるが、それは他の誰でも構わない。みんな誰かの役に立ちたいと思っているのに、その役得を独り占めしているのだ。だからイヤな存在なのだ。そんな自己嫌悪を忘れるために、いつもはアルコールの力を頼るのだが。

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目の毒、気の毒な北千住の裏道の風景。地元ではないが、僕の馴染みの街である。