猫の手を貸してあげる

 よく行く居酒屋の元バイトの女性が夫婦で飲み屋を開店するということで、その準備で忙しく動き回っている。その一環として店内の塗装作業を手伝う人員を募集していたので、友だちと一緒に顔を出した。白いペンキをローラーで塗りたくる作業に没頭して、頭の中がすっかりカラッポになった。

 人との距離を測りながらの作業なので、集中力はあまり続かない。それでも、暑い中でずっと同じ作業をしていると、人との境界線も曖昧になる。つまり、人間すらも景色となってしまう。いつもの僕なら、その境地に達することができる。でも、昨日は慣れない場所のせいか上手く達せなかった。

 まあ、実際のところでは、手伝いの人員が多かったので、途中からはウロウロするだけの足手まといとなった。だから、没頭の境地に達していたのは序盤だけのように思う。それでも総じて楽しかったのは、知らない顔ばかりの手伝い要員の人々がみんな良い人で、変に構えないで過ごせたからだ。

 こういう作業は手伝いでやるから楽しいわけで、これが金銭の発生するバイトだったりすると様子が変わってくる。バイトの場合は時間に対する対価なので、いかに楽をするかを考えてしまう。でも、そうするとダラダラして終わらない。僕は、終わりが見えると急ぎたくなるタイプなので、困る。

 何が困るかと言うと、早く終わるとやることがなくなるのだ。それでも時間に合わせて動くと無駄な時間稼ぎのような作業を加えなければいけない。それが気持ち悪い。だから終わらせてしまう。理想としては「早く終わった人は帰って良いし、時給は当初の予定通り払う」と言って欲しいのだが。

 仕事を早く終わらせてしまうと、その作業が次回からは「早く終わる作業」として雇用主に認識されることになる。そうなると、仕事に対する対価が減ることになる。末端の仕事のスピードというのは、本当に無意味なものだ。むしろ、淡々と長くやれる人の方が重宝される。そんなことを考えた。

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飼いたいとは思わないが、猫とは通じ合えそうな気がする。勘だけど。