なぜか透明な夜

 仕事がひと段落すると、急に一抹の寂しさのようなものが芽生える。東京の東側にあたる街に仕事場があったのだが、今日で一旦打ち切りとなる予定だ。そこに行かなくなると、今度は別の仕事が待っている。その別の仕事に取り掛かるまでの気の重さを抱えつつ、今日は今月最後の出勤日である。

 その現場での僕は、とても態度が悪いと思う。ちょっと愚痴が多いのと、素直じゃないところが鼻につく。同じような業務をしている人がいると比較が容易いのだが、要するに僕の方が我慢ができないのだ。思ったことを言ってしまう。言わずに溜めると、その我慢が通常になりそうでイヤなのだ。

 そんなやりとりを経て、それでも仕事は終わる。ガチャガチャに散らばっていたと思っていたのだが、落ち着くところに収まるのだ。今日はその最終仕上げに行く。先方の準備が先にあるので、僕は午後からの出勤だ。遅く始まるということは遅く終わる。僕は、帰りが遅くなると愚痴も増える男。

 今日の作業が長引くことも見越してか、昨日は早々に帰らされた。早く帰ってきてしまうと、つい酒場に顔を出したくなるのが人情だ。空いてる時間なので、自動的にソーシャルディスタンスも保たれる。かつてはギュウギュウに人が詰まっていた酒場だ。寂しくもあるが、空いている方が休まる。

 そこで、カウンターにいた先客に見覚えがあったので、そのふたつ隣に座ったら知らない人だった。ただ、飲み進めて行くうちに「前に会った」記憶が蘇ってきた。それは多分お互い様。なので、恐る恐る「美容師の方ですよね」と聞いてみたら当たった。酔った時だけ記憶の回路が繋がるらしい。

 そうやって話して行くうちに、その場での会話がちょっと前をトレースしているだけだと感じてくる。多分、同じ話をしている。その感覚をお互いに持ちながら、でも止まらない。だって、前に何を話したかなんて覚えてないから。ただ、まあ総じて印象良く過ごせたのでよしとしようではないか。

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寒くなると「あん」がかかった食べ物ばかり食べる。あと、いつもセット物。