穏やかならざるリバーサイド

 僕が生まれ育った町は不便だ。ずっと「駅のない市」と呼ばれ、市外の高校に通っているときは軽くバカにされた。地方自治体レベルで他人をバカにしようという発想はなかったので、それを言われて初めて地元愛が芽生えたとも言える。でも強い地元愛ではないので、極端な反応はできなかった。

 その後、僕が30歳を過ぎた頃に市内に駅ができた。当初は駅まで10分くらいの場所に住んでいたので通勤などに利用していた。でも、すぐに現住所に家族ごと引っ越したので、当初よりも3倍以上時間のかかる場所になってしまった。その路線の運賃が高額なこともあって、利用しなくなった。

 現在、主に利用しているのは隣の市の駅だ。天気が良ければ自転車で10分、雨ならバスで10分、どちらにしてもかかる時間は同じだ。特に雨の日はダイヤが乱れるし、道も混むので10分以上かかる。結局この町の不便さは変わらない。不便かつ見所もなく、警察官が少ないので治安も悪い町。

 ずっと住んでいるので不便であることを忘れてしまうが、改めて列挙してみると不便というより「弱い町だなぁ」と感じてしまう。やはり、住民の地元愛が薄弱だという点が大きいのだと思う。この町をなんとかしようという意思が感じられない。僕にもないが、僕以外の誰かにもそれはないのだ。

 みんな薄々感づいているのだ。この町の人間に熱くアピールすると小馬鹿にされるということを。地元愛よりも近親憎悪の町なのだ。それは、小さい頃からの学校での日々を思い返すと容易に想像できる。子供の頃は熱い想いが溢れている。そういう純粋を踏みにじる嫌な風土があったように思う。

 僕が、最寄り駅まで自転車で行く時に通る川沿いの道がある。その川を挟んだ向こう岸は隣の市だ。川沿いで見晴らしが良く、走っていて気持ちが良い道なのだが、いつも淀んだ空気が流れている。化学品工場の異臭も影響しているだろうが、隣の市への憧れと妬みが先鋭化しているようにも思う。