若い芽を摘まず目をつむる

 はじめて僕が通うようになった酒場には、近所の大学生が代々バイトに入っていた。かつては「女人禁制」じゃないけれど、バイト同士の揉め事が面倒だったので女性は断るようにしていたという。でも、男女差別と言われたらオシマイだと判断したのか、最近では女子バイトも雇うようになった。

 もうひとつ、以前は「ジャイアンツファン限定」というウラ条件もあったと聞く。店長が無類のジャイアンツファンなので、従業員同士で険悪にならないように配慮したものだろう。負け越した球団のファンに給料を払うのがシャクということかもしれない。そのルールも、今は消滅してしまった。

 そこでバイトした連中は、すんなり大学を卒業できない場合が多い。留年を重ねるうちに、嫌気がさしてやめてしまう者も見かける。卒業後の進路に飲食系を選ぶ者も多い。その酒場で飲食の楽しさに目覚めたのかもしれないし、最初からその素養があったのかもしれないが、店長は危惧している。

 その仕事の苦労を知っているからだろうけれど、同業への就職を喜んでいる風ではない。でも、ほとんどの学生が勉強よりもバイトに力を入れていたのだろう。身に付いたモノで勝負したくなるんだと思う。長くやっていると調理場の仕事もやるようになるので、さらにスキルアップできるわけだ。

 代々、そこでバイトする学生は長期間やる。昨日も軽く店を覗いてみたら「まだいたのか」と思うほど長くやっている男がいた。もしかしたら学校は辞めちゃったかなと思って別の従業員に聞くと「今年こそは卒業」と言っているそうだ。5年以上その店で見ているので、そろそろアウトのはずだ。

 僕は大学を辞めることに対して反対ではない。ただ、勿体ないから「卒業しておけば」くらいは言っておく。でも、辞める方向に動き出した人間にとっては卒業するまでの時間が勿体ないのだ。早く自由になって、自分の踏み出した道へ方向転換したいのだ。好きにすればいい。すべて君の自由だ。

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幾つになっても食欲だけは若い。これが老けたら面白くないだろうな。