野球を嫌いにならないで【前編】

 僕の野球に関する気持ちというのは、複雑なものがある。スポーツとして、この国での野球の地位はとても高い。そして、その序列は学生時代の人間関係にも如実に反映される。僕の世代では強制的に坊主頭にさせられる野球部員だが、それがクラスの人気度やモテ度には何の影響ももたらさない。

 そんな野球至上主義の世界で、僕も最初は野球で勝負しようと思った。少年野球をやっていたので、そのまま中学生になったら野球部に入るのが道理だ。幼なじみの連中たちも同じように思っていただろう。でも、僕は野球部には入りたくなかった。その理由は、少年野球の時代に遡ることになる。

 当時、市内の全チームが集まって野球教室が開かれた。そこでは元プロ野球選手との触れ込みの名も知らぬコーチが、守備や投球、バッティングの講習を行なう。僕は、一応チームでは名ばかりの4番打者だったので、バッティングの講習に出させられた。そこで、数十人がまとめて素振りをする。

 僕は、特に打撃に関しての指導を受けたことがなかった。だから、マズい点があるのなら、プロの指導の元に改善したいと思っていた。その僕の素振りを見た元プロは、僕と、もうひとりを指名して、みんなの前に出して素振りさせた。まずは僕から「振ってみて」と言われ、全力で振って見せた。

 そこで元プロがひと言、これが「悪い例」と言って会場が笑いに包まれた。その後に振った選手には、まさに惚れ惚れといった表情で「この振り方が正解」的なことを言っていた。恥ずかしすぎて、当時は以降のことを何も覚えていない。ただ、中学校であのシーンを覚えている他校の人間がいた。

 僕の中では、恥ずかしさとともに、大人の理不尽さ(何故なら、その悪い例として出された僕には特別な指導はなく、良い例の人間にだけ指導していたから)に腹立たしい気分を抱えていた。いい大人が、指導するべき相手を間違えて僕を放置している様子は、現代で言う「公開処刑」でしかない。

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球場に観に行くと単なるいちファンとして応援するだけの野球好きだ。