獅子舞と五百円

 僕が初めてやった仕事は祭りの手伝いだ。小学生の頃、よく遊びに行っていた近所のお兄さん(遊び人風)の家があった。外見はサーファー風のスタイルなのだが、子供をキャンプに連れて行ったりするのが好きな世話焼きの人だ。そのお兄さんの家の裏にある神社で、毎年夏祭りが行われていた。

 当時は、どんなに小さな町のお祭りにも夜店がたくさん並んでいた。市内のすべての町会で盆踊りをやっていたと思うので、少年野球チームの数だけ祭りがあったわけだ。その手の小さな盆踊り大会に比べれば格段に大きな祭りがその神社で行われており、そのお兄さんも実行委員的な立場だった。

 この辺はうろ覚えで確認はしていないのだが、おそらくお兄さん(面倒なので以下「アニキ」に略)の家は神社の宮司の家系だったと思う。だから、その神社のお祭りの夜に、普通の子供ではあまり体験できない仕事を回してくれたのだ。その祭りは獅子舞がメインで、その行事の端役に選ばれた。

 土俵のような舞台があり、その真ん中で獅子舞踊りが繰り広げられている。その踊り手のひとりは子供で、もうひとりも中学生くらいだったと思うが定かではない。彼らはちゃんと練習してその場に望んでいる。神事を理解している踊り手だ。それを四方の角から見守るのが、僕らが与えられた役。

 ただ立っているだけとは言え、いつ終わるとも知れない踊りを見続けているのもツライ。言葉も発せられないし、真ん中で踊っている人の真剣さと運動量に比べて、こちらは消費カロリーゼロ。申し訳なくなってくる。そのうち夜も深まってきて、家に何も言ってなかったことが心配になってくる。

 心配というか、家の人に「心配かけているなぁ」と分ってはいるが、途中で連絡を取る術がない。獅子舞踊りが終わって、バイト代として500円をもらったが、そんなことよりも早く帰りたかった。家に着くと、家の前に母親が鬼の形相で立っていた。怒られた。そんな携帯電話のない時代の話。

【追記】途中で(以下「アニキ」に略)と注釈を入れた途端に「アニキ」と記すのが恥ずかしくなって、それ以降、登場しなくなったアニキことお兄さん。小学生以来会っていないが、今では会うことができない。これも未確認情報なのだが、おそらく、お兄さんは亡くなってしまったそうだ。合掌。

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縁日の焼きそばは期待するほど旨くない。でも個人BBQの焼きそばは旨い。