夏のシステムコンポ

 僕の世代では誰もが通る道として、ミニコンポのブームがあった。各種オーディオメーカーから出されたコンポは、コマーシャルのイメージによって好みが分かれていたように思う。僕が親にねだって買ってもらったのはケンウッドのロキシーシリーズの下位グレードだった。それでも嬉しかった。

 その頃はCDに移行期だったので、レコードプレーヤーはオプションになっていた。でも、レコードプレーヤーがないとサマにならないので、別売りだというのに無理を言って付けてもらった。だから、レコードを買わなきゃ損と思い、コンポを手にして最初に買ったのはシングルレコードだった。

 そのレコードは、バンドを解散した直後の氷室京介の「エンジェル」という曲だった。中学3年生の夏だ。それ以降、レコードを買った記憶はない。レンタルレコード屋はあったけれど、自分で会員になった記憶はなく、会員の友達に自分の分のカセットテープを渡してダビングしてもらっていた。

 中学時代、オーディオに凝っているヤツの部屋が仲間の溜まり場になっていた。僕らが聴いてもまったく分からないような細かい音質の違いを説明してくる。ビデオテープで録音した方が「音が良い」などと言っていたこともあったが「ビデオテープには映像を録れ」と全員から突っ込まれていた。

 むかしから、僕の周りでは「あるある」なのだが、オーディオに凝るヤツほど聴いている音楽がダサいというのがあった。そのビデオテープダビング男も、比較的そんなタイプだった。だから、彼とは別の音楽に詳しい友達の家にもよく遊びに行っていた。そいつは洋楽にも詳しくてギターも弾く。

 僕の初期の音楽的素養は、その部屋で身についたものだ。他にも、その部屋に通ってくるヤツから「佐野元春」のカセットを借りたりした。上等な音楽体験だったと思う。週に2日、みんなで「勉強会」と称して集まっていたあの頃は、むさ苦しい男だらけの部屋だったけれど、輝ける日々だった。

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中学生は酒も飲まないので、ただ音楽を聴いて菓子食って喋っていた。