常識プリズンからの脱出

 面白いものに出会うため、面白いものを探すためには、常識に囚われていたら限界がある。ある線を逸脱した先に面白いものが見えているなら、ルールを破っても見に行かなければ手に入れられない。別に犯罪者や悪人になりたいわけじゃないが、それは大人になった今でも持っていたい気持ちだ。

 僕は、気がついたら朽ちた建物や錆びたトタンなどの質感が好きになっていた。あとは工場の造形美というか、アンバランスさに惹かれるところがある。それらの魅力に気がついた当初は、海岸線の工場群やガントリークレーン、積み上げられた無数のコンテナに魅せられ飽くことなく眺めていた。

 最近では、仕事の関係で山間部のキャンプ場に行くことが多い。キャンプを楽しむためじゃなく、それらのイベントを取材するために行くのだ。とはいえ、人が楽しんでいる場所に行くのだから仕事の煩わしさはあまり感じない。それに山の近くは気持ちが良いので、ついでにリフレッシュされる。

 そういった山間部には、途中に「良い工場」が点在している。それらを見るようになってから、海岸線よりも山の工場の方が気になっている。セメント工場なのだろうか。石材を山積みにしてあったり、サイロから何本かのパイプラインやベルトコンベアなどが見えており、ハリボテ感が堪らない。

 それらの工場は外壁にトタンを使っていることが多く、何度も建て増ししているのか色がバラバラだったりする。そして、絶妙に朽ちている。土日に行くことが多いので、稼働しているところを見ていない。だから、クルマを停めればじっくり見られるのだが、頭が仕事モードから切り替わらない。

 とにかく仕事を済ませてからでないと、この素敵なプラントの造形を堪能できない。できれば弁当を持参して、ピクニック気分で眺め続けたいものだ。そんな想像をしながら仕事場に向かうのだが、帰りになるとスッカリ疲弊している。楽しい仕事でも消耗はするのだ。だからいつも逸脱できない。

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季節外れの海の家(秋田県)。こんな質感も好きだ。寂しくて良い。