蒸し焼き熱帯夜

 僕が若気の至りでインドに現実逃避行した時に、まず直面した問題が暑さ対策だった。最初に泊まったニューデリーの安宿は、大部屋に日本人しか泊まっていない気安さがあった。男女で分けていない点は謎だったが、女性陣も特に不平を漏らす感じでもなかった。とにかく宿が決まって安心した。

 とは言え、初めての海外旅行で選んだ国がインド、下調べもロクにせずに国内の2泊旅行程度の荷物で来た不安が急に兆した。情報を集めようと思って旅慣れていそうな女性に話しかけると、その人の話が面白くて、自分の不安などは屁のように吹き飛んだ。これは楽しそうだと期待が湧いて来た。

 近所のツーリスト用レストランで食事をとり、暑さに身悶えながらベッドに横たわった。その部屋にはエアコンがついておらず、天井のファンが虚しく温風をかき回している。最上階なので日中照らされた天井の熱が抜けず、ひと晩中ず〜っと暑い。旅の興奮もあるのだろう、初日は眠れなかった。

 翌日は近隣の観光と、次の目的地を決めるために旅行代理店を巡って情報収集しようと思った。でも、やはり暑いし、街の騒音は落ち着かないし、なんか臭い。慣れないスパイス臭と排ガスと動物の排泄物が街に溢れている。タフな街だぜ。フラフラと裏道を歩いていると、少年に声をかけられた。

 カタコトの英語同士でニュアンスを汲むと、学校の課題で外国人に街を案内するように言われている的なことを言っているようだ。彼に寺などを案内され、昼飯まで奢ってもらった。小学校低学年くらいの子供に、だ。恥ずかしい。そのお礼にボールペンをあげたけど、彼から得たものの方が多い。

 歩き回って疲れたので、今夜こそ寝られるかと思ったが全然寝付けない。旅慣れた女性によると「暑い時はシャワーで服ごと濡らしたまま寝ちゃう」とのことだった。試してみよう。結果的には、朝まで何度か濡れて乾いてを繰り返し、生乾き臭くなっただけ。結局デリーでは一睡も出来なかった。

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インド旅行時の僕の荷物。こうして見ると本当にコンパクトだ。