異形のモノに誘われて

 フリーランスは時として死ぬほど暇なので、そんな時は現実逃避のプチ旅行に出ることが多かった。頭の中で言い訳をするなら「アウトプット過多でインプットが必要」などと知った風なことを考えてみる。要するに何も思いつかない状態なので、死なない程度の刺激を求めてJRに乗り込むのだ。

 でも、刺激を求めているといいながら「死なない程度」とリミッターをつけているところが潔くない。命がけのスリルにこそヒラメキがあるような気がするではないか。ただ、そんなことで命をかけていたら一生にひとつしか仕事を仕上げられない。僕の作業は芸術ではないので、割りに合わない。

 命はかけず、視覚・嗅覚・味覚あたりへの軽い刺激を求めてJRに乗る。この「JR」というのが、僕にとっては旅だ。我が家の最寄駅は東武線という私鉄になるので、この範囲での移動に旅情は生まれにくい。この路線も、ひたすら下れば福島まで行けるのだが、そっち方面には向かわないのだ。

 僕が「ヒラメキを求めて」という嘘をついて出かける先は、かなりの高確率で神奈川だ。横浜市ではない、神奈川県のどこかだ。別に横浜市を嫌っているわけじゃないし、そこを拠点にしたプロ野球チームを応援していたりもする。そういうわけじゃなく、横浜では旅の距離感として近すぎるのだ。

 逆に、横浜よりも距離的に近い川崎だと話は違ってくる。川崎には旅情があるように思える。たぶん僕と馴染みがないから、肌感覚として合わないのだ。合わないから、その違和感がドキドキする。なんか楽しい。特にJR鶴見線などは、殺風景な路線なのにヤケに男心をくすぐるロケーションだ。

 あと、僕の優柔不断さから「終点まで行っちゃう」ことがよくある。降りる駅を決めかねて、京浜東北の終点「大船駅」まで行ったことが数回ある。大船まで行くと、丘の上の観音像が気になる。ものすごく巨大に見えるので一度訪問したが、像はバストアップのもので、下から見るだけで充分だ。

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街中に忽然と現れる巨大サイロも、近くまで行くと意外に小さかったりする。