黄色い国しか知らないぜ

 若い頃は、世界を飛び回るような仕事に憧れを抱いていた。世界中に顧客がいて、それらの人に会わなければいけない仕事なんて想像もつかない。アーティストなら、そういう活躍の仕方が「成功」と直結するだろう。一般の企業で、ヒラ社員が世界を飛び回るという状況はあまり現実的ではない。

 だから、世界に飛び出すためには独立しなければいけない。自分で仕事を作って、それを持って世界中に働きかけるのだ。そういうワールドワイドに通用しそうなアイデアを持ったこともなければ、そういう発想を考えたこともない。僕が漠然と「世界を」と思っていたのは、旅人としての世界だ。

 日本の勤務形態から見れば、海外旅行は年に一度の弾丸ツアーくらいしか現実的ではない。落ち着いて旅行できるのは国内くらいだと思っても、休みが集中するので行き帰りの渋滞にウンザリする。だから、旅行を楽しむためには「休みをズラせる」という雇用側の柔軟な対応も重要な要素となる。

 僕の理想的な世界旅行としては、出張先の海外の街で失踪し、そのまま消えてしまうというものだ。同僚と同行している場合は、メモくらいは残して行こう。どこの街だか知らないが、その国の風土が肌に合い、そのまま住み着いてしまう。でも、よそ者に長居は無用。いずれ出て行くことになる。

 そこで必要になるのは金だ。金を稼ぐのに必要な要素として、その国の言語も覚えた方が有利である。できれば人の役に立つ仕事で稼ぎたいのだが、そういう意義のあることには現地民が採用されがちだ。根無し草の流民(空想上の僕のこと)が就けるのは、日本からの旅行者相手のガイドくらい。

 そのガイドの仕事で知り合った女性と意気投合し、彼女の以降の旅程に同行する。旅先で衝突することもあるが、困難を乗り越えた2人は旅の終わりに共に生きることを誓う。そのまま世界一周の新婚旅行に出て、これから生きるのに最も適した街を探すのだ。閉じこもりがちな日々、妄想は自由。

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ペットを飼う願望はないが、妄想の中なら猫を飼うのも自由だ。