まぼろし酒場でひとり酒

 数年前に出張で宇都宮に泊まった時に、ホテルの周辺でフラッと入った居酒屋が面白かった記憶がある。女将さんと若女将のふたりで営んでいる店だったが、その女将さんが下ネタばかり言う賑やかな店だった。スナックのノリに近いのだが、店構えはあくまで居酒屋ないし小料理屋の風情だった。

 初見の店では、僕としては精一杯の気さくさを演じてみるのだが、僕の演技は拙い。思い返してみると、子供の頃から「わざとらしい」と教師に言われ続けていた。イヤイヤやることに対して、体が拒否反応を示して不自然になるのだろう。気さくさに関しても、腑に落ちてないから不自然なのだ。

 なぜ気さくさを演じると不自然になるのかと言うと、僕はもともと気さくだと思っているからだ。でも、顔面と体のサイズから「不器用で無骨」なイメージを持たれることが多いように感じる。だから、ありのまんまでいると話しかけられない。でも、初見の店では話しかけられたいので演技する。

 ただ、酒場では酔うので芝居は長くは続かない。そうなると、気さくなフリはできなくなり、生まれつきの気さくが現れる。それは無防備ということだ。無防備になるとスケべになる。その宇都宮の店では、女将さんが下ネタばっかり言うので、僕も調子に乗ってスケべになってしまった気がする。

 その女将さんは母親くらいの年齢なのだが、若女将(おそらくアルバイト店員さん)の方は30代のどこかといったところ。ふたりとも和服なのだが、若女将は大柄な人で和服の似合うガッチリとした体型だ。前時代的な表現を使わせてもらうなら「男好きのする」という言葉がよく似合う女性だ。

 旅の恥はかき捨てとはよく言うが、僕はあまり旅先で恥をかき捨てたことがない。ただ、この日は柄にもなく「この若女将とウシシな夜を過ごしたいなぁ」などと不埒なことを考えていた。と、途中で気持ちがスッと平常に戻った。それは、カウンターの男性陣全員が同じ妄想を抱えていたからだ。

f:id:SUZICOM:20200605090154j:plain

酒での失敗談が少ないと他人から信頼はされるが、面白くはない。