インスパイア・フィクション

 高校生の頃だったと思うが、試験電波のような放送で1日中「ニューシネマパラダイス」という映画がTVに映し出されていた。記憶を整理するためにこの映画の公開日を調べたら、1989年日本公開となっていた。そこから察すると高校生の頃というのはあり得ない。でも、学生の頃だと思う。

 この映画が「かなり良い」ということは知っていた。すでにレンタルビデオ等で観ていたからだ。でも、この試験放送での刷り込みによって、この感動はさらに強く印象付けられたのであった。何度目かの視聴で、もうオープニングでテーマ曲が流れるくらいのところで涙腺が崩壊してしまうのだ。

 最初に観た時は、ラストシーンでアルフレッド(主人公が子供の頃に仲良しだった映写技師)からプレゼントされたフィルムを流すシーンで感動してしまう。誰にも身に覚えがあるようなノスタルジーをテーマにした映画だと思う。その全体の流れを知った上で観ても、冒頭から泣いてしまうのだ。

 これ以前にも、また以降も映画は観たが、この感動が原体験だと思う。ここを基準にしている。だから、ほとんどのヒューマンドラマには最初から高いハードルが設定されている。それでも、経年劣化とともに涙腺が緩んでいるので、感動演出に負けてすぐに泣く。ただ、原体験を超えてはいない。

 むしろ、アクションやサスペンス系のエンタメ作品の方が、感動のベクトルを「泣く」ことだけに置いていないので、単純な面白さだけで反応できる。そういう「面白い」映画として際立っていたのが「パルプフィクション」だと思う。編集的な技巧も大きいのだが、特に面白いのはセリフだった。

 英語のセリフをそのまんま理解しているワケじゃない。むしろ、最初に観た時は日本語吹き替え版だった。友だちの部屋でレンタルビデオを観ていたのだ。あの時に、僕の世界は広がったような気がした。新しい世界に触れると、自分が「何かできる、何でもできる」と思わせる魔力があるようだ。

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アキラが壊したネオ東京のようなビル。あの漫画にも心揺れたものだ。