空は飛べないはず

 初めて映画「マトリックス」を観たとき、僕は物凄いものを手に入れたような感覚になった。いま見えている世界は偽物で、思考次第でその偽物の世界で自在に動くことができる。あの感覚を実生活に取り入れたら、もっと自由に生きられる気がした。あの世界を鵜呑みにしたという意味ではない。

 考え方の転換、瞬時に真逆から見るような視点の切り替えを心がけるようになった。いまだにそんな自由視点を手に入れられてはいないのだが、そういう思考のジャンプができたら楽しいなと思っている。メタ視点ということだと思うが、実人生においてメタも◯◯もない。だから上手くできない。

 もともとSFとか、設定が難しそうな映画は苦手だった。最初に「マトリックス」を観たのもレンタルビデオだ。公開と同時に映画館で観るようなファンではない。だが、観てみたら特に難しいことはなく、すんなりと腑に落ちる世界観だった。日本のアニメに似たようなのがあったなとも思った。

 僕にはオタク資質が決定的に欠けているのだが、最近の僕が好きになるコンテンツはオタクスピリットを感じさせるものばかり。自分にはない凝り性な人たちが構築した世界をコッソリ覗いているのだ。申し訳ないような気分と、彼らに対する尊敬が同時に押し寄せる。単純に感心してしまうのだ。

 学生時代から、長いことスポーツの世界に身を置いてきた。体を動かしていないと気持ち悪かったし、試合で良いプレーをできたときのカタルシスも知っている。フィジカルの楽しさは身についているので、そういうコミュニティに籍を置くことは受け入れてきた。でも、何かが決定的に足りない。

 それは知的好奇心の探究だ。スポーツにも知的な側面は多々あるが、その戦略やムーブの解説で満たされることはない。もっと多岐にわたる知識の枝葉を広げたい。そんな物足りなさから、次第に団体競技のサークルからは離れるようになった。潮時ということだろう。いまは酒場がホームである。

鉄道マニアの方々と話すのは楽しいし、実際に一緒に出かけると頼れる能力だ。