寝た子を起こしてお先に失礼

 はじめて映画館に行ったのは小学生のころ。当時、流行していたガンダムの映画版「めぐりあい宇宙」を母親と観に行ったのだ。たぶん再放送がリバイバルヒットしていた時期だと思うが、それに当て込んで、TV放送分を3部作に再編集したものの最終作だ。それでも、夢中になって観たものだ。

 当時、映画館に行くことは特別な体験だったので、そこで得られる情報は余すところなく吸収したくて超集中して観ていた。だから、幼い頃に観た映画は、細部をよく覚えている。逆にあらすじや設定などは忘れてしまう。流れで理解できる部分には、なけなしの集中力を割いていないからだろう。

 中学生以降は、同級生と「たまに観に行く」程度のイベントだった。映画のタイトルも、子供向けのものから中高生向けに変わってくる。特に中学校に入って最初に友達といっしょに観に行った、とんねるず主演の「そろばんずく」が印象に残っている。それは、内容よりも観に行った時の状況だ。

 その映画は、同時上映で「おニャン子ザ・ムービー危機イッパツ」が併映されていた。当時の僕は、あまりおニャン子クラブを面白いと思っていなかったので、こっちの映画は仕方なしに観ていた。それよりも、僕らのラジオスター「とんねるず」を観たくて来たのだ。他の連中は知らないけれど。

 映画館の上映スケジュールの都合で、最初はおニャン子映画から観なければいけない。僕としては時間をズラして「とんねるずだけでも」とも思ったのだが、ひとつ観てもふたつ観ても値段は同じだ。それなら「観なきゃソン」だと判断した。でも、その内容に関しては、何も記憶に残っていない。

 その後で観た「そろばんずく」の方は、意味不明で不思議な映画だったと記憶している。理解しきれなかったので「もう1回観よう」と全員一致で話は決まった。当時は入れ替えがなかったのだ。そして、もう1回おニャン子を観た後に、仲間から「晩飯の時間だ」と言われて家に帰ったのだった。

 つまり、おニャン子映画は都合2回も観ているのだ。それでも覚えてないというのは不思議だが、他の連中から、それに関するクレームは出なかったのだ。もしかしたら、みんな「おニャン子観たさ」で来ていたんじゃなかったのか。僕にはこういうところがある。空気を完全に見誤っているのだ。

 帰り際に、僕は映画の半券を失くしていることに気が付いた。僕は、出るときに半券を返すものだと思い込んでいたのだ。それでオタオタしていたのだが、当然そのまま出てもなんの問題もない。総じて、この日はみんなのノリについて行けていない感じだった。そんな中学1年生の夏の思い出だ。

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記憶自体は脳の貯蔵庫に収まっているはずで、呼び戻せないだけなのだ。