占い師舞う路地裏

 大学生の頃、当時お付き合いをしていた女性と、大学の近所の居酒屋に飲みに行ったことがある。部活の同期を誘って飲みに行こうと言ったら、そいつが面白い店があると言うので、連れられるがままに店に向かった。店に着くと、その店の女将が「占いができる」というオプションが付いていた。

 その頃の僕は、今よりも頑なにスピリチュアルを排除していた。占いという言葉を聞いた時点で胡散臭いと思って寄せ付けないところがあった。とはいえ、人並みに「女子は占いが好き」という通り一遍の情報を心の片隅に置いてもいたので、連れがある手前それほど嫌悪感を出さずに飲んでいた。

 頃合いを見て、同期の男が占いの話を持ち出した。ちょうど女将が配膳に来たタイミングで、そのまま手相見の雰囲気になった。まずは僕のガールフレンドが占われていた。その後、何となくの流れで僕の方に順番が回ってくるのだが、その時に女将が「あんた、本当に知りたい?」と聞いて来た。

 その聞き方が「間を心得ている」というか、僕の気をぬく素晴らしいタイミングだった。確かに僕は占いを信じない人間ではあるのだが、ここまで来たら「聞いてやろうじゃないか」という道場破りの心だったのだ。その掛かり気味の気持ちをそらす上手い逃がせ方に、内心「できるな」と思った。

 その段階で、その女将のことはかなり信用してしまった。でも、占いっていうのはここがポイントなんだよなと思う。どこで相手を飲むかということなのだ。僕は半分飲まれてしまった。でも、僕の本体は全くそれを信用していない。脳の一部だけが女将に洗脳されたまま、その占いに従っている。

 女将が言ったのは、僕が「晩婚で大器晩成」だということ。その占い自体は、当時付き合っていた彼女に対してのメッセージと矛盾するので、彼女との将来は「無い」ということであった。それは、当たった。ただ、現状が未婚の僕としては「晩婚」という言葉に一縷の望みを持っていたりはする。