達人を知る

 パッと見ただけで「ただ者ではない」と思わせる人間がいる。異形のものだ。明らかに周りから浮いている。でも、他人と違うことが欠点となっている訳ではなく、それは頭ひとつ抜けた存在感なのだ。そういう人は大きく見える。それで、実際に身長を聞くと意外と平均的だったりして驚くのだ。

 昨日の夜、酒場で出会った人はものすごい存在感だった。ガタイがいいので自分と同じくらいの身長かと思ったら、172センチとのことだった。自分より16センチも低いことになる。でも、そんな身長差は全然感じられない。この圧倒的存在感はどこから来るのだろうと、いろいろ聞いてみた。

 その人は柔道をやっていて、しかも国際大会に出るレベルまでいった超上級者だと知った。その頃の有名選手と試合したこともあるということだったが、その話には引き込まれた。普通の相手とならば、組んだ瞬間に強いか弱いかがわかり、しかも、強くても「こうすれば勝てる」と分かるという。

 でも、その有名選手と試合した時は、組んだ瞬間に「コレはどうにもならない」とすぐに分かったそうだ。あとは「どう逃げるか」を考えるので精一杯だったという。そして、消極策しか出ない時点で勝負は決まっていたのだろう、思い切り投げられてしまったという話だった。上等な話を聞けた。

 柔道は、相手に対して「自分を大きく見せる」競技だと思う。その有名選手と組んだ時に飲まれてしまったのは、相手の方が大きく見えたからではないだろうか。そして彼にもソレが身についているから、酒場にいる僕らを威圧する気もないはずなのに、あんなに大きく見えたのではないだろうか。

 帰り際に娘さんの話をしていたからだろうか、彼の風貌と相まって北斗の拳に出て来る「アイン」に似た印象を抱いた。極めて好印象であり、僕が初対面の人に抱く感想としては最高点に近い。人間のことを点数で評価して「何様だ?」って話だが、ひとつのことを極めた人間の魅力は底知れない。

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梅雨入り前に、とてもカラッとした気持ちのいい人間に出会った。