期待の数だけふっかい穴

 あまり明確には覚えていないが、春になると新学期で、学校では毎年クラス替えが行なわれていたはずである。小学校のクラス替えは2年毎で、その間は同じ担任となる。女性の担任が2回だったので、男性の担任だった時の記憶が曖昧だ。覚えているのは、滑舌が悪くて赤ら顔だったことくらい。

 話を戻してクラス替えのこと。小学生の頃は、クラス替えするたびに単純に友達が増える感覚があった。後から思い返すと、増えるというより友達が変わると言った方が正確だ。前のクラスで仲よかった人間とも、物理的に会わなくなると心理的な距離も開くようだ。そこに疑問は感じてなかった。

 記憶が曖昧なのは、クラス替えがどのように発表されていたのかだ。新学期に学校に行くと、クラス割りが貼っていたような気もする。ただ、その記憶がまるでない。中学生くらいになると、気になるのは女子。可愛い子がいて、その子が自分のことが好きで告白してくることだけを想像していた。

 ほのかな恋への期待だけを胸に、毎年のクラス替えを楽しみにしていたフシがある。つまり、その願いが成就したことはない。ただ、もし成就したとしても、それは「告白される」までの話だ。その後のプランは何もない。別に女子と付き合って具体的に何をするという想像はしていなかったのだ。

 だから、高校に入って突然そういう機会がやってきた時も、ただ「ありがとう」と間抜けな返事をするのみだった。たぶん「好きです」と言われて返せる返事はそれしかない。今でも同じだろう。その後が続かない。こちらの気持ちを聞かれても、ありがとうに続くのは「うれしい」くらいである。

 人間というのは意外と誠実なもので、相手の好意に対して「生半可な気持ちでは答えられない」と思ってしまうのだ。相手の気持ちだって、長い時間をかけて作られたものだろうと想像する。それに対して、こちらはゼロスタートなのだから仕方ない。そんな朴念仁の僕に、恋の女神は微笑まない。

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二択を迫られると必ずハズレを選ぶ男。恋に選択肢は要らない。