ハートとテクニック

 僕が自発的に音楽を聴くようになり、自分のセンスだけで最初に見つけたのがハードロック・ヘヴィメタルの大作系の楽曲だった。それらの曲を聴いた時に、いわゆる「雷に打たれたような」衝撃を受けたかといえば、そこまで大袈裟なものではなかった。ただ、美メロ好きの心には深く刺さった。

 メタルブームの後期はギターヒーローが乱立して、テクニックを競うような世界になっていった。早弾きブームとも言われるが、超人的なギターの手数で圧倒するサーカス的なテク偏重の季節が一瞬あった。ボーカルがリーダーのバンドであっても、ギタリストが幅をきかせていた時代なのである。
 そのころは完全な情報の受け手だったので、音楽ライターの書く主観記事を鵜呑みにするしかなかった。ギターインスト系のメロディアスな曲調のものは、当時流行っていたギターヒーローのフォロワーとして扱われて、「雨後のタケノコのごとく」などと一緒くたに評されていたと記憶している。

 この手の早弾きメロディアス系のギタリストは、プロレスの入場曲とかアニメの主題歌にはしっくりくる。音楽ライターには手数ばかりで雰囲気がないとか、魂がこもってないなどと揶揄されていたように思う。でも、人がカタルシスを感じるような場面に合う曲たちは、とても魅力的だったのだ。

 速く弾くという行為は、それ自体が非常にフィジカルで熱量がある。そのプレイは当然、聴くものにダイレクトに伝わる。単純に音数をたくさん弾くことで、振動の数も多いということになるのだ。空気を震わせることで信号を送る。その信号に込められたメッセージは自己顕示欲かもしれないが。

 僕が熱心にこれらの曲を聴いていた高校生時代は、部活の試合前などにポータブルカセットプレーヤーで聴いて行ったものだ。気持ちを高めるにはうってつけの音楽で、自分が物語の主役になったかのようなヒーロー感もあるのだ。人生の序盤は、ああいう曲で勢いをつけるのも大事かもしれない。

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店名に込める思いを想像すると、どうしても店主に理由を問いたくなる。